(写真はyoutube.com/watch?v=0pIpYxYM0HUからのスクリーンショット)

昨日(2024年5月31日)、「長春 Eternal Spring」の特別上映会に行ってきました(文京シビックセンター)。これは2002年3月5日夜、吉林省長春市のテレビチャンネルを法輪功修練者が「電波ジャック」し、中国当局が当時行っていた反法輪功キャンペーンに抗する映像(法輪功は反社会集団ではなく、共産党が宣伝していることは根拠がないこと)を放送した事件を、当時の実行者にインタビューしつつ、その模様をアニメーションで描いたものです。監督はジェイソン・ロフタス、そしてアニメーターは大雄。彼も長春出身、事件直後、法輪功修練者だった大雄は弾圧を逃れて脱出、今は海外でアニメーターとして活躍中

この後中国共産党当局は関係者の一斉逮捕に踏み切り、約1年間をかけて数千人の法輪功修練者が逮捕され、拷問によって殺されたものもいました。これは法輪功のみならず、当時のアムネスティなども当局の拷問を批判しています。

私は法輪功関連の映画はこれまでも見たことはあるんですけど、こうしてフェースブックで紹介することはしませんでした。理由は簡単で、法輪功とその支援者にとっては確かに重要な作品なのかもしれませんが、一般の方に見てほしいレベルではないと失礼ながら判断したからです。しかし、今回の作品は違います。リンクした予告編、法輪功に関心のない方や反発を覚えている方にも見てほしい。

予告編の1分47秒からのシーン、これは実へ伊賀の中でも一番印象的だったかっとなんですけど、弾圧から逃れようとする心理描写、やはり中国人アニメーターの大雄、水墨画というか墨絵の感覚が見事!後でチラシを見たら、この人はスター・ウオーズのコミック版とかジャスティス・リーグのコミック版だけじゃなく、武侠小説(要するに中国版チャンバラ劇)のイラスト書いてるんだ!これで納得しました。

まず冒頭、大雄がひたすら絵コンテを描いているシーンから始まり、まず事件後の場面がドキュメント風に短く描かれたのち、彼がこの事件をアニメ化するために、事件の参加者で韓国やアメリカ、カナダなど外国に逃れている人々に会いに行く場面が続く。これが見ものなのは、大雄がインタビューしつつ、目の前で、彼らの記憶をそのまま絵にしていくところ。

絵がうまい、とかいうレベルではなく、人間の記憶と回想が、そのまま目の前で絵画化されていく、アニメーションにしかできない表現を目の当たりにします。私は昔、アニメーションはアニミズム、絵の中に魂が宿ることだ、と、まあ確か酔った勢いで適当なことを言ったことがありますが、まさにそのまま、記憶を語る言葉に命が込められて立ち上がっていくようでした。

そして、大雄が、当時は電波ジャックに懐疑的だったことを素直に語っているところもいい。彼は作品の中で、自分は法輪功は健康維持や体操のために行っていただけだったし、電波ジャックによって弾圧が始まるので故郷を抜け出して最終的には国外脱出するしかなかったことを不満にすら思っていたと正直に述べています。

その彼が、韓国に住む実行者の一人に、お互いの生まれ故郷である長春の街並みを、子供の頃の思い出として描くのが、この予告編の冒頭、トロイメライが流れる場面。私は長春に入ったことはないんだけど、瀋陽と延吉にはよんどころない事情で何回か言ったことがあります。彼らにとってはこういう故郷なんだなあ、と実感しました。故郷を思い出しながら、二人の心が通っていく場面はなかなか感動的。

内容はこの電波ジャックの実行者たちの出会いと各キャラクターを描きつつ、事件現場をアニメで再現、そして、多くが逮捕され、特にリーダー格だった人は殺されたことが語られていきます。全然「英雄」として描かれないところがいい。また、電波ジャックの現場もリアルに描かれ(要するに電柱に上って電線を自分たちの映像につなぐ)余計な演出はせず、しかし、その後の逃走劇はダイナミックに描くという対比もうまいと思った。拷問のシーンなどは、陰惨さを感じさせないギリギリのところで、弾圧者たちの暴力を描きつつ下品な残酷描写にならないよう注意している。

私は法輪功に対してはいくつかの批判があります。特に、これまでの映画でもあったんだけど、ウイグルやチベット、モンゴルなどの各民族の文化を、すべて中国文明の中に一体化するような発想は、少なくとも今中国政府と闘っている各民族の人は素直に受け入れられるものではない。ただ、今回の映画では、法輪功の主張や修練についてはほとんど触れず、事件と弾圧、そして逮捕されても信念を曲げずに殺されていった人々の姿に絞ったことで、作品として普遍性を持ったものになっています。これは基本的に推薦できる映画。もう少し日本でも上映会などできたらいいと思う。